今回は小豆の話ですが話をはじめる前に一つだけ。
この小豆、「アズキ」と読まずに「ショウズ」と読んでください。
さて、前回は餡子の話をしました。 その際、粒餡とこし餡では引き出すうまさが違う、と説明し ました。粒餡は豆そのものの美味しさを餡にし、こし餡は、 口の中でさらりと解ける、その口解けのよさを引き出すよう に作ります。この餡の違い、これは豆を選ぶ際にも十分考慮 しなくてはならないことです。
まず粒餡です。
これは豆そのものの美味しさを引き出します。 それは、豆自体の味はもちろん、皮まで一緒に味わうことが 出来なければならないということになります。皮がやわらか く、口の中に含んでも呉(豆の中身)の美味しさとうまく混ざ り合う、そんな豆を選ばなくてはなりません。
このような粒餡の条件に一番あっているのは、大納言という 種類の小豆でしょう。大納言の特徴は、まずその味にありま す。豆自体の味が濃厚でこくがあり、炊き上げると味の良い 餡が出来ます。さらには外の皮が薄く、皮が餡の食感を損ね ることがありません。粒餡に適した品種なんですね。
豆の産地は、丹波、北海道、備中が有名ですが、三松堂の粒 餡はすべて備中(岡山)産の大納言を使用しています。花游菓 角最中、花茜などの餡は、すべて備中産大納言で作られてい ます。
次にこし餡です。
こし餡は口解けのよさが一番の特徴です。ということは味が濃くきめが細かい豆が必要になってきます。
さらには、こし餡を作るには粒餡を作るよりも多くの豆を必要 とします。理由は、作る過程で皮を捨ててしまうからです。捨 てる皮の分、どうしても量は減ってしまいますので、同じ量の 粒餡とこし餡を作ろうとすれば、どうしてもこし餡のほうがよ り多くの小豆を使うことになります。
加えて三松堂では、名物の源氏巻があります。こし餡を皮で巻 いた焼き菓子なのですが、これは名物だけに一年を通して大量 に作らなければなりません。ということは、一年を通して大量 のこし餡が必要になり、結果として一年を通して大量のこし餡 用の小豆が必要になってくるわけです。
こういった条件から、三松堂ではこし餡に北海道産の小豆を使 っています。この豆の特徴は風味豊かで、きめが細かいことが あげられます。年間の収穫量も多いため、同品質のものが一年 を通じて手に入るという利点もあります。
北海道小豆を使って作られる商品には、源氏巻、栗饅頭、餅等 各種あります。
三松堂銘菓「鯉の里」もこし餡を使って作られますが、こちら は備中産の赤小豆を使います。この品種改良された豆は、炊き 上げたときの色が他の小豆よりも赤く、その色と豆のうまさが 鯉の里に適しているのです。
このように小豆と一言でいえど色々と種類があり、その特長に よって作られる餡も変ってくるわけです。小豆のほかに餡作り に欠かせないのは、なんと言っても砂糖ですね。砂糖も、小豆 同様いろいろと使い分けているわけですが、それは次回ゆっく りとお話したいと思います。
さて、話は冒頭までさかのぼりますが、小豆は「アズキ」と読 まずに「ショウズ」と読んでください、とお願いしました。実 はこの「ショウズ」、どうも和菓子業界用語のようです。
資料参考文献
「百菓辞典」 山本候充編 東京堂出版