お菓子といえば、甘いと相場が決まっています。しかし、甘ければ良いというものでもないなぁ、といつも思わされるのが、お菓子を食べたときのお客様の反応です。これは本当に人様々なものがあります。
甘すぎる、と言う人もいれば、甘さが足りない、と言う人もいます。お茶を嗜む方は、お抹茶と一緒に食されたときのことを考慮されますし、そもそも辛党の方は見向きもしません。こういう様々な反応を見ていると、どの程度の甘さが適当なのか分からなくなります。
昔は、本当に甘いものが好まれていました。戦後の時代、上生菓子などは、糖度が九十パーセント以上もあったそうです。そのくらい甘くないと菓子が売れない時代でした。しかし、今の人は甘すぎるものを敬遠する傾向にあります。今の上生菓子など、糖度は五十数パーセントしかありません。半分近くも糖度が落ちているんですね。
この変化は何故起こるのかと言えば、やはり日本人の生活の変化に由来するのではないかと思います。戦後の時代は砂糖が高級品でなかなか手に入らなかったと言う話を聞けばその当時、人々が甘味に飢えていたのではないか、と言うことが容易に想像できます。なかなか食べる機会がないのであれば、少量でその欲求を満たすくらいの甘さが必要だったのではないでしょうか。
それに比べ今の時代、飽食と言われて始めてかなりの時間が経ちますが、我々の身の回りには非常に多くの「甘いもの」があり、それらが簡単に手に入るようになりました。となると甘味に対する欲求もまた変化してくるのは当然のことでしょう。
さらには、人々が健康志向になったと言うことも挙げられます。体を動かす機会が減った分、今までと同じ量の食事をしていたのではカロリーが多すぎ、それが色々健康に害を及ぼすことを人々が意識するようになりました。減塩・減糖の食事を始めるようになりました。
こういう変化に対応するため、当店では以前から糖度をなるべく低くしようと努力をしてきました。糖度を低くするにはどうするのか。それはもう使う砂糖の量を減らすと言う方法しかありません。餡などの甘味は砂糖と水飴や米飴などでつけるのですが、以前と比べてそれらの量は格段に少なくなりました。
しかし、砂糖や水飴などの甘味料は、ただ単に甘味をつけるための物ではないんです。甘味料には保存料や保湿剤等の働きもあり、糖度を落とすといってもそんなに簡単なものではないんですね。職人などは糖度を上げるのは大歓迎だが落とすのはしんどい、とよく言います。
以前のような砂糖の量を使っていれば、正直なところ、人工の保存料などを使わずとも一ヶ月くらいは、保存が利きます。それは砂糖には塩と同じくらい保存料としての働きがあるからなんです。ただ、糖度を落とすと当然保存の効果もなくなるわけですから、最近のお菓子など日持ちがしないのは当然のことなんですね。
砂糖の量を減らすと、もう一つでてくる問題が、餡のしとりの問題です。砂糖は保湿剤としての働きもあります。和菓子の生地や餡がいつもしっとりとしているのは、砂糖が水分を蓄える役割を担っているおかげなんです。ですので、その砂糖を減らすとどうしても生地がぱさついたり、締りのない餡になってしまいます。美味しさが無くなってしまう訳です。
職人は今の当店の餡の甘さが、ある限界ではないかと言います。これ以上甘さを控えめにすると今度は餡のうまみが損なわれると言っています。これ以上砂糖を減らさねばならないなら、和菓子や餡の根本から全てを変えていかなければならないでしょうね。これから先、どうなるのか考えたら少し不安ではありますが、色々な変化も含め、まあ楽しんでやっていけたらなぁと思います。
本店の店員より