先週は、機械メーカーの営業マンが来たと言う話をしました。その営業マンから、機械で作る菓子の話しを聞いたんですが、とうとうとその営業の人が教えてくれる「売れるお菓子の情報」を聞きながら、自分は少し怖くなった、とお伝えしました。
怖くなった理由は、まず自分の店の色々な情報がこの機械メーカーを通じて全国の和菓子屋で共有されてしまうのではないかと言うのが1つ。
このことは、先週すでにお話しましたね。
で、もう1つなんですが、これは全国の和菓子屋の個性がなくなってしまうのではないか、と言う不安なんです。
皆さんご存知のように、日本には各地に和菓子屋があります。ここのお店はきんつばが美味しいとか、ここはどら焼きとか、各店舗によって特徴がありますよね。特徴のほかに、各お店には各お店の歴史があり文化があります。強みもあれば弱みもあります。こういう多様性が、和菓子と言う世界を面白くしているのであり、また深みを与えているのだと思うんです。
しかし、この機械メーカーの営業の人は、そういったものをあまり理解しないか、していても関係なしに、自分のところの機械を売るためにその機械で作る「売れるお菓子」を薦める、と言う感じでした。まあ、機械屋さんは機械が売れればそれでいいのでしょうから、当然と言えば当然なのですが。
今はどこも厳しいでしょうから、売れるといわれればそれを作ってみたくなるところも沢山あるでしょう。今まで、作ったことのないようなお菓子でも、作り方は教えます、と言われれば機械を導入して作ってしまうのではないでしょうか。
その結果どうなるのか。
どのお菓子屋も、「売れる菓子」を作るようになり、どこに行っても、同じような菓子しか売らなくなる。同じメーカーの機械を使えば指導の仕方も同じでしょうから当然味も同じようになります。そうして、少しずつお店の個性がなくなってしまうような、気がするのです。
似たような物しか置いてないお菓子屋しかないことを想像すると、どう考えても面白みに欠けるような気がするんですよね。先ほども言いましたが、今は色々な店が色々なものを売っています。各お店には歴史や文化、技術がありそれが多様性を生み出しています。色々なものがあるから、やはり和菓子と言うものが面白く、またこの世界に深みを与えているのだとも思うんです。
各お店の個性がなくなれば、当然和菓子と言うものの面白みや深さがなくなり、薄っぺらいものになるような気がします。そうなると当然、和菓子と言うものの価値は下がり、和菓子屋と呼ばれる全ての店に、悪影響があるんじゃないかなぁ、と思うんです。まあ、ここまでは考えすぎかもしれませんが、お店の個性がなくなればお客の足は和菓子屋から遠のくような気がします。新しいお菓子を発見する喜びや、新しい味を経験する喜びがなくなるのですからね。
そういうことで、この機械メーカーの営業には少し不安を覚えたのです。
ただ、そうは言っても、和菓子業界と、これらの機械メーカーとはもう切り離すことの出来ない関係でしょう。これからの技術の革新は、機械の進歩に頼るところが大きいと思います。生クリームなど、手では包めなかった物が包めるようになったのはその良い例でしょう。そういう意味でも、当店でも機械メーカーに期待している部分は沢山あります。お互いがもっと刺激しあって、お互いがいい方向に発展できる関係になればいいなぁ、と思うのですが。