手詰めもなかの出来るまで4

「手詰めもなかの可能性」

先月説明したとおり、元々最中の餡は、寒天が多めに加えられ、硬めに仕上られています。その理由は、水分を寒天で閉じ込め、種に湿気が出来るだけ移らないようにしているからです。

しかし、「手詰めもなか」は、最初から餡と種が別々に包装されていますので、この湿気の問題がありません。

ということは、餡を寒天で硬くする必要が全くないということですが、これは和菓子屋の観点から言いうと、ちょっとした革命のようなものでした。

このことに気が付いてから、餡を開発しようとした段階で、硬くする必要がないのなら餡はやわらかく仕上げよう、という意見が真っ先に提案されたのですが、ここで実は意見の衝突がありました。

職人と言うものは多かれ少なかれこだわりを持って仕事をしています。真剣にやっている人ほど、こだわりが多いような気がしますが、時としてこのこだわりが、良いものなのか悪いものなのか、分からなくなるときがあります。

これまで、こだわってもなかの餡を作ってきた職人から、「もなかの餡は硬くなければいけない。餡を柔らかくすることは最中の餡の常識から考えておかしい」、と言う意見が出て、柔らかくしてみようという意見と衝突したのでした。

今まで最中をずっと造ってきたその職人は、当然今まで作っている最中が一番美味しいと思って作っています。

しかし、この「手詰めもなか」を製造するに当たって、全く反対の性格を持つ餡を作ろうと言う話が出て来て、それに反発してしまったのでした。それもそのはず、この餡は彼の考えやこだわりとは、全く方向が違っいたのですから。

このことについて長い間話し合いをしました。

結局のところ、他の店と全く同じ事をするのでは、この商品を作る意味が余りないのではないか、と言う意見が多数になり、反発していた職人も、気持ちの切り替えに時間が掛かりましたが、最終的には納得をして柔らかい餡の開発に取り掛かりました。

長い間、最中の餡を作る際、寒天で水分を閉じ込めることを考えて餡を炊いてきた職人です。美味しい餡を作りながらも同時に、種に湿気が移らないようにとそのことに最大の注意を払ってきたので、全く違う餡を作ることに対し、最初は戸惑いもあったようです。

ただ、こういった職人は、自分の納得のいかないことは絶対にしませんが、納得したらその途端に動き出す人が多く、今回も戸惑いながらもすぐに行動に移しました。寒天の量を調節したり、いい甘さを出すために砂糖を変えてみたりと、色々な餡を作り始めたのです。

試作を数回経て出来上がってきた餡は、柔らかく上品な甘さに仕上がっていました。

豆は備中の大納言小豆です。甘さを抑え、出来るだけ柔らかく炊き上げた餡は豆の風味が十分に味わえ、後口に甘ったるさの残らない、餡だけ食べても十分美味しいものに仕上がっていましたね。

種は、焼き立てをそのままパック詰めにするため、非常にパリパリと香ばしい風味をそのまま味わうことが出来ます。上品な焼餅と言うか、おかきのような感じですね。

その種に、この柔らかい餡を挟んで口に運びます。歯がふれると種がパリパリと崩れ、噛み続けることにより口の中で香ばしい種と柔らかい餡が混ざり合います。種の風味が口いっぱいに広がり、餡の甘味が舌の味覚を心地よく刺激します。大袈裟に言うと最中ではなくまるで別のお菓子のようです。

正直に言って、今までの最中が好きな方は、この最中に少し抵抗があるかもしれません。その理由は種も餡も今までの最中とは、全く正反対の特徴を持っているからです。

しかし、ぱりぱりとした食感、香ばしい種の風味、そして柔らかく、まろやかになった餡。この二つが口の中で混ざり合うときそれは今まで味わったことのない、新しいもなかの味を発見することになると思います。

そういった意味でも、もなかが嫌いな人にこそ、このお菓子を食べてもらいたいと思っています。

もなかなんだけれども、これまでのもなかとは全く違ったお菓子。それが、この手詰めもなかです。気に入って頂ければ、幸いです。

2003年8月20日(水)
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