手詰めもなかの出来るまで2

「最中の美味しくない理由」

最中の種はどんなものか、ちょっと想像してみてください。

口に入れて噛んだ瞬間にぽろぽろと崩れ、歯の裏にくっ付き、一瞬香ばしいような香りがするような気がするけれども、「ああ、気のせいだったな」と思うくらい何の主張もなく餡の風味に巻き込まれのどの奥に消えていく薄茶色の物体。どんな味がするのかよく分からないし、記憶にも殆ど残りません。

恐らく、多くの方は最中の種は最初からこんな物なんだろう、と思っている方が殆どだと思います。最中が嫌われる理由の第1位が、「歯の裏にくっつくから」と言うものですが、付いているのはこの種です。おそらく、余り良い印象は無いのではないかと思われいます。しかし、本当の種は香ばしく風味があり上品なおかきのような、焼餅のような、そういうものなんですね。

最中の種は、もち米で作られます。もち米をついて餅を作りそれを型に入れて焼き上げたものが最中の種です。ですので、種自体は香ばしくて当たり前の食べ物なのですが、何故か最中として食べるときは、何の主張もなく、ボロボロと崩れ歯の裏にくっついてしまいます。

実はこれ、湿気が原因なんです。

普通、最中の種には焼き上げた後に少し湿気を含ませます。その理由は種が乾燥しすぎないためです。余り乾燥してしまうと、バリバリになって崩れやすくなりますが、少しだけ湿気を含ませることにより種が少し柔らかく崩れにくくなり、口に入れたときにも餡とうまく絡み合うようになります。

種の湿気がそれ以上増えなければ何の問題もなく、美味しいままの状態を保つことが出来ます。しかし、最中は餡が挟んであるお菓子です。餡は炊いて作るものですので、当然の如く水分を含んでいます。もちろん、最中用の餡も例外ではありません。

「最中の餡の特徴は?」と聞かれて「硬いこと」とすぐに答えることの出来るあなたはかなりの最中通です。そのとおり、最中の餡は湿気が種に移らないように、餡を寒天で硬めに仕上げてあります。水分を寒天で閉じ込め、湿気が外へ逃げないようにしてあるのです。

恐らく、口に入れるときはあまり気にならないと思うのですが、餡だけを比べたときに、普通の餡と最中の餡では、硬さに明らかな違いがあります。その硬めの餡を、へらで種が崩れないようにやさしく詰めて最中は出来上がります。

ただ、いくら硬く仕上げてあるといっても、どうしても餡から種へと水分は移ってしまいます。作りたては、当然まだ種が香ばしい風味を保っていますが、日が経つにつれ、種は空中や餡からの湿気を少しずつ吸収して、段々柔らかくなっていきます。そして同時に、種は香ばしさを失っていくのです。

こういうことを考えれば、最中と言うお菓子はどちらかと言うと、生菓子に近いものではないかなぁ、と思うのです。作った直後が一番美味しいお菓子。もちろん、保存は利きます。少し糖度を高くすれば、しばらくは傷むことのないお菓子です。しかし、先ほども申し上げたとおり、保存が利くと言うことは必ずしも「美味しさまで保つことが出来る」という意味ではないのです。

保存が利くからといって、少々長く賞味期間を設定します。もちろん、糖度を高くすればその間商品が痛むことはありません。しかし、その間ずっと、種は餡から少しずつ、湿気を吸収しつつ、柔らかくなり続けます。美味しさが少しずつなくなっていくわけです。

作りたての最中の味を知っている人は、最中の本当の味を経験したことになります。しかし、多くの方は作ってからしばらく時間の経った最中しか食べたことしかないのではないでしょうか。そういうことを考えれば、この最中が好き嫌いの激しいお菓子であるという説明が付きますし、納得もいきます。

当店のもなかは、賞味期限が5日となっています。割と短いほうではないかと思うのですが、ただやはり、5日目に食べるとどうしても種が湿気を吸いすぎて柔らかくなっていることに気が付きます。作りたてと比べると、やはり味の劣化を認めないわけにはいきません。

そういうことを考えると、最中の本当の味を知らずに最中を嫌っている人が結構いるのではないかと思います。それは本当に残念なことだなぁと思うのです。では、どのようにすれば、もっと美味しい最中をお客様に食べてもらう事が出来るのか。そう考えたときにでた結論が、「手詰めもなか」でした。

?続く

2003年6月20日(金)
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