白餡について

みなさんがお好みの和菓子の中で、白餡のみを主役にしたお菓子が、どのくらいあるでしょうか? 考えてみると、その数は意外と少ないことに気づかれると思います。

我々も白餡はふんだんに使いますが、それのみを主役にしたお菓子というのは、実はないんです。

鴎外いちごの大福、上生菓子に白餡をたっぷり使っているじゃないか、と思われる方がいらっしゃるかもしれません。しかし、実はこれらのお菓子、白餡が主役ではないのです。鴎外は抹茶風味の餡ですし、いちごの大福にしてもいちごの風味を生かすための餡という脇役にとどまっています。

これは良くも悪くも、白餡の特徴が原因なのです。

白餡の特徴は、なんといってもその味が淡白なところにあります。小豆餡に比べ、その味も香りもそれほど濃くはありません。 小豆餡などは、それだけを食することがあるほど、風味も香りも豊かなのですが、それに比べると白餡はそれだけを食べるには少し味不足であるということができるでしょう。

しかし、これはただ餡として食するには致命的な要因になりますが、逆に風味、香り、色付けをするにはこれほど適した餡はないということになります。実際、黄味餡、抹茶餡、柚子餡など、これらの餡のもとになるのは白餡ですからね。

要は使いようなのです。

さて、白餡を作るときの豆ですが、我々は大福(だいふく)と白丸(しろまる)という2種類を使い分けています。

まずは大福豆です。

この豆は餡にしたときに少しねばみがでてきます。このねばみを嫌う人もいらっしゃいますが我々は焼き菓子には向いているのではないかと考えます。 この豆を使って作られるお菓子に鴎外があります。

津和野の文豪・森鴎外先生をしのんで作った焼き菓子ですが、この中には抹茶の餡が入っています。この名菓に大福豆を使った理由は、先ほども言った「ねばり」にあります。

というのも鴎外を製品化するとき、できるだけ乾かない餡子を作りたい、と決めていたからです。 白丸だとさらっとしているだけに、焼き上げた後に水分がなくなり、ぼろぼろと餡が崩れてしまい、抹茶のみずみずしい色が失せてしまいます。

その点、大福豆はあの「ねばり」があるからこそ、焼き上げたあとでも餡に「しとり」が保てるのです。

次に白丸ですが、白丸の特徴はねばみが少なく粒子が細かいということがあげられます。ということは、作ったときにさらっとした白餡が出来上がるということになります。

この白丸を使った商品には、好評の「いちごの大福」、そして上生菓子各種があります。 いちごを使った大福はほかのお店でも作られていますが、そのほとんどが小豆餡をつかっています。

しかし、当店では「いちごの大福」を作るときに白丸の餡を使います。その理由は、やはり白餡の味が淡白でさらっとしているからです。淡白だからこそいちごの風味を損ねることがありません。そして、いちごの酸味と白餡の甘味がお口の中でうまく混ざり合うのです。さらに、さらっとしている餡を使っているために、後味の良さが引き立ちます。

さらには、上生菓子を作るときにはこの白丸の餡を使います。柚子で風味をつけたり、天然の色粉で着色をしたりと、上生菓子を作るときにも白餡は重宝する材料になるのですね。

2001年8月1日(水)
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