砂糖の話

砂糖はお菓子作りには欠かせないものですが、我々はいつも思います。お客様の砂糖に対する欲求度を見れば、その時代に生きる人々が見えてくるのではないかと。まあ、少し大袈裟ですね。

さっそく砂糖の話に入りましょう。砂糖と一言でいいますが、これも小豆と同様、いくつかの種類があり目的によって使い分けをしています。上白糖、グラニュー糖、白ザラメ、名前は違いますが、原料は同じさとうきびです。精製の度合いが違うだけだということができます。

上白糖は、一番粒子が細かく、しっとりとしています。また、粒子が細かいだけに水に溶けやすいという特徴があり、さらには一番甘味を強く感じやすい砂糖です。

グラニュー糖は、上白糖に比べると粒子が大きく白ザラメに比べると小さい粒子をしています。質も値段も、ちょうど上白糖と白ザラメの中間にあたりますね。

白ザラメは、一番粒子が大きく、高純度の砂糖です。味は癖がなく淡白な甘味をしています。

商品によって割合を変えていますが、三松堂の餡は、だいたい上白糖とグラニュー糖を混ぜて甘味をつけます。しっとりとした餡を作るには、しっとりとした砂糖は欠かせません。

しかし、これらの砂糖は上品であっさりした味を出すのには向いていません。というのも、先ほども言いましたが、上白糖はあくが少し強く、食べたときに強い甘味を感じるからです。

そういうわけで鯉の里と上生菓子、これらの菓子に甘味をつけるときは、白ザラメのみを使います。

鯉の里は口の中でさらっと解ける、そんな口どけの良さが評判のお菓子ですので、なるべく甘味料も、くどくない、あっさりとして、さらっとしたものを使っています。

一方上生菓子は、形をつけたりするのにいろいろと細工をしなくてはなりません。そのときに上白糖を使っていると、少し粘りが出てきて、細工がしづらくなってくるのです。味もさらっとしたものが向いていますので、ここでも白ザラメを使います。

これまで紹介した砂糖は、いろいろなものに甘味をつけるために使われる、言ってみれば脇役のようなものですが、砂糖の中にもそれ自体がお菓子になってしまう、そんな砂糖があります。

それが和三盆糖です。和三盆糖は四国の徳島、香川で生産される国産の高級な砂糖です。普通の砂糖に比べると香りや味が良く、口の中でさらっと解け、食後舌の上にべたついた感じが残りません。 このような特徴から、和三盆糖は打ちもの(落雁など)によく使用され、甘味料としてよりもそのまま味わう砂糖として重宝されています。

打ちものの話が出てきたので、少しこの話を続けたいと思います。打ちものとは、落雁を代表とするように、砂糖、もしくは砂糖に穀粉を混ぜていろいろな形に打った砂糖菓子のことを指します。 以前は仏前に供えたりと、和菓子の代表的な存在でありましたが、最近ではあまりその姿を見ることはなくなりました。

その原因はおそらく、和菓子・洋菓子いろいろな形で甘いものが我々の周りに溢れるにつれ、人々が単純に「甘さ」を楽しむことがなくなったからではないか、と思います。

大名への献上物が金平糖だった時代、砂糖が貴重品でなかなか手に入らなかった時代には、人々が「甘さ」を楽しむため、砂糖をいろいろな形に打った打ちものや落雁を食べ、その甘さへの欲求を満たしていたのでしょう。

ただ、現在のように砂糖が容易に手に入り、なおかつ和菓子・洋菓子いろいろな種類のお菓子が簡単に買える様な時代には、砂糖の甘さのみを楽しむ、このようなお菓子はあまり必要がないのかもしれません。

さらには、人々の「甘さ」への欲求度が低くなったことも、打ちものがあまり好まれなくなった原因の一つでしょう。 戦後の時代は、糖度よりも甘味度が高い甘味料が良く使われていました。例えば、糖度が100%だとすると甘味度は120%もあるような、甘味料も好まれていました。

しかし、今はその逆です。糖度よりも、甘味度が低い甘味料が良く使われます。糖度70%に対し、甘味度は50%といった具合です。

お菓子は甘くなければならないけれど、甘すぎるのは敬遠される時代になりました。人々の生活や習慣が変わるにつれ、甘さに対する欲求度も変わっていくものなのだ、と最近よく感じます。

我々はいつも、お客様に楽しんで味わってもらえる甘さを考えながら、お菓子を作っています。それが、その時代に一番適した「甘さ」なのではないでしょうか。

 

資料参考文献

「茶の菓子」  千宗室監修 鈴木宗康著 昭和五十四年 淡交社発行
「百菓辞典」  山本候充編 平成九年  東京堂出版発行

2001年7月1日(日)
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